災害支援ガイド

支援調整窓口の運営

(第1回)支援の申し出に戸惑う被災地

大規模災害時、被災地には多種多様な支援の申し出が殺到します。しかし、大量の支援がやみくもに集まると現地は混乱し、かえって復旧・復興の妨げになりかねません。本シリーズでは、支援を必要な人や場所に適切に繋ぐ「支援調整窓口」の活動を掘り下げていきます。

*この記事は、2026年7月時点での情報を基に執筆しています。

ー TOPICS ー

 1.鳴り止まない電話
 2.行き場を探す炊き出し
 3.支援のミスマッチを防ぐ「ハブ機能」
 4.支援調整窓口の効果
 5.「受援力」を被災地任せにしない

1.鳴り止まない電話

大規模災害時、現地で災害対応を担う基礎自治体である市町村(以下、自治体)や社会福祉協議会(以下、社協)は、想定外の様々な課題に直面します。そのひとつが、鳴り止まない電話への対応です。もちろん被災者からの救助要請や避難生活に関する切実な問い合わせもありますが、それ以上に現場を逼迫させるのが「物資を送りたい」「支援に行きたい」といった外部支援者からの大量の問い合わせです。

こうした電話の1本1本には、純粋な「善意」が込められています。その気持ちを無駄にしないために、電話対応をする職員も丁寧な受け答えに努めます。本来、支援の必要性をきちんと判断するためには被害状況や現地のニーズ調査を優先すべきところですが、昼夜を問わず鳴り続ける電話がその時間を奪っていきます。結果として、ホームページなどによる公式な情報発信は後手に回り、状況が分からない支援者からさらに電話がかかってくるという悪循環が生まれてしまうのです。

程度の差こそあれ、大量の支援の申し出に戸惑う状況は、これまでの被災地でずっと繰り返されてきた課題です。しかしながら、被災地外からはその混乱する現地の様子が見えづらいこともあり、これまでなかなか優先すべき課題として扱われることはありませんでした。

電話対応に追われる支援調整窓口の担当スタッフ
電話対応に追われる支援調整窓口の担当スタッフ

2.行き場を探す炊き出し

自治体の代表番号に殺到する電話の中で、特に頻度が高い内容が「炊き出しをしたい」という相談です。確かに自治体は避難所などへの食事の手配を担っていますが、その業務は複数の避難所に毎日3食を大量かつ安定的に、そして確実に供給することを目的とするため、パンやおにぎり、お弁当などの業者への発注が中心となります。一方、電話で寄せられるのは、NPOやボランティア、企業などからによる食数やメニューが毎回異なる「単発の炊き出し」の申し出です。特に発災直後の混乱した時期には、日時や食数、メニューなどを事前に調整し、避難所等の受け入れ先とマッチングするような窓口機能や人員を自治体側で確保する余裕はありません。 

そこで炊き出しの希望者は、「それならば避難所となっている学校や施設に直談判してみよう」と考えます。しかし、学校体育館などの避難所担当者の直通番号は公開されていないため、問い合わせは施設の職員室などの代表番号にかかってきます。当然、炊き出しの調整は施設の本来業務ではないため、対応する現場の職員は受け答えに大変な労力を使います。すんなりと受け入れが決まらなければ、炊き出しの問い合わせはさらに次の行き先を探すことになります。

では、地域のボランティア窓口である社協の災害ボランティアセンター(以下、災害VC)はどうでしょうか。ここにも「炊き出しのボランティアを受け入れてほしい」といった問い合わせが数多く寄せられます。ただ、ほとんどの災害VCが扱うのは家屋の清掃といった活動が中心です。衛生管理や異なるオペレーションを必要とする炊き出しの調整まで、手が回らないのが実情です。

ライフラインが止まり「食」の課題を抱えた被災地には、炊き出しのニーズは必ずあります。だからこそ、全国には「温かい食事を届けたい」と希望する支援者が存在しています。被災地と支援者がいわば両想いであるにも関わらず、ニーズと支援を結びつける「ハブ機能(調整役)」がないために、支援の申し出が行き場を失い、現地の混乱を招いてしまっているのです。これが、ピースボート災害支援センター(以下、PBV)が、被災地で自治体や社協と協力し「支援調整窓口」を立ち上げ、炊き出しをはじめとする多種多様な支援の調整を担うようになった背景のひとつです。

被災地での炊き出しの様子

3.支援のミスマッチを防ぐ「ハブ機能」

被災者のためを思って実施した支援が、かえって現地の不満や不公平感を生むことがあります。炊き出しを例に、次のような場面を想像してみてください。

①被災したA市には、X・Y・Zの 3つの避難所があり、それぞれ100人(計300人)が避難しています。
②避難所では連日、A市から冷えたお弁当が支給されていますが、避難者からは「温かい食事が食べたい」という声が上がってきています。
③これを知った外部支援団体が、被災地のためにと、それぞれ100食ずつの炊き出しを準備しました。
④しかし、事前調整がないまま実施当日を迎え、報道で大きく注目されていたX避難所に炊き出しが集中してしまいました。⑤その結果、X避難所にはA市からのお弁当と2団体分の炊き出し、合わせて300食(避難者の3倍)の昼食が届き、食べ切れなかった分は処分されることとなりました。
⑥一方で、YとZの避難所に炊き出しの提供はなく、冷えたお弁当が支給されていました。

上記は単純化した仮設定の場面ですが、こういった状況は被災地では頻繁に発生している課題です。「良かれ」と思った支援者側の行動が、結果として物資の偏りや避難所間の深刻な支援格差を生み出してしまうのです。

原因は、明らかに情報収集と事前調整の不足にあります。炊き出しやお弁当に関する情報が一本化され事前調整していれば、支援をX・Y・Zの各避難所に分散させることができたはずです。また、昼食のお弁当と重複することが分かっていれば、炊き出しを夕食の提供に回すといった柔軟な調整も可能だったかもしれません。

このような支援のミスマッチを防ぎ、現地のニーズと外部からの支援を適切に繋ぐことが、支援調整窓口に求められるもうひとつの「ハブ機能(調整役)」です。

4.支援調整窓口の効果

被災地に支援調整窓口が設置され、その存在と役割が認知されるようになると、自治体や災害VCの代表電話への問い合わせは劇的に減少します。その結果、職員が本来の優先業務に集中できるようになり、被災地全体の災害対応力が向上します。

また、支援調整窓口の存在は、支援の「総量」や「関係人口」を増やすという副次的な効果も期待できます。「炊き出しや支援を行いたい」と申し出てくる個人や団体の多くは、日常的に大規模な災害支援を行っているわけではありません。むしろ「支援は初めて」という割合の方が多いかもしれません。もしサポートしてくれる窓口がなければ、実施までのハードルの高さから支援そのものを諦めてしまうケースもあるでしょう。最初は小さな規模の支援かもしれませんが、窓口のサポートを受けて一歩を踏み出せたことが成功体験となり、「また支援しよう」と次の活動につながった事例も数多く見てきました。

2024年の能登半島地震において、PBVでは石川県珠洲市で独自の炊き出し支援を実施し、約1万3千食の食事を提供しました。これだけでも決して小さくない規模ですが、被災地全体のニーズを満たすには到底足りません。そこで、PBVは珠洲市と輪島市で「支援調整窓口」の運営を担当したところ、2025年3月末までに珠洲市で累計1,600回・20万食以上、輪島市で累計2,000回・30万食以上の炊き出し調整を行うことができました。PBV単独の炊き出し提供数と比べると、実に約40倍にのぼる食数を被災者へ届けられたことになります。

5.「受援力」を被災地任せにしない

災害時、被災地が外部からの支援をスムーズに受け入れ、復旧・復興のために有効に活用する力のことを「受援力(じゅえんりょく)」と呼びます。支援調整窓口を設置し、適切に運営していくプロセスは、まさに被災地の「受援力」を高める取り組みだと言えるでしょう。では、その受援体制の構築や運営は被災地にすべてを委ねてしまっていいのでしょうか。

確かに、被災地の自治体や災害VCの職員は受援の中心的な担い手です。しかしながら、大規模災害になれば地元の職員の多くは自身もまた被災者です。自分や家族が被災し職場環境にも被害が出ている中で、未経験の災害対応業務に戸惑う状況が生まれるのは当然のことです。そのような限界状態の被災地に「受援力を発揮すべき」と求めるのは現実的ではありません。だからこそ受援体制の構築には、被災地の担い手と協力し一緒になって進んでいく「伴走支援者」の存在が不可欠だと感じます。

「被災地のために何かしたい」と思った時、私たちが選択できる支援の形は、必ずしも現場で被災者の方と直接向き合う活動だけではありません。全国から集まる多様な支援者を裏方としてサポートし、一つずつの思いを具体的な形として被災地に繋ぐこと。これこそが、支援調整窓口が果たすべき大切な役割なのです。

 

倒壊した建物や浸水した街並みなど、直接的な被害の様子はメディアでも連日報じられます。しかしその陰で、押し寄せる大量の善意の支援に戸惑い、限界の中で何とかやりくりしている被災地の「舞台裏の苦労」は、なかなか外からは見えにくいものです。本シリーズが、そうした被災地の舞台裏を知り、これからの災害支援のあり方を共に考えるきっかけになれば幸いです。

*2026年熊本地震における「支援調整窓口」の活動については、現地事情が落ち着いた後に本記事への加筆を予定しています。

支援調整のため、地図で炊き出しなどの場所を検討する様子(2026年熊本県氷川町)

 

関連記事を読む
 ・(第2回)ニーズの把握と事前準備
 ・(第3回)コーディネーションの実務

参考資料
・内閣府(防災担当)「地域の『受援力』を高めるために」
・内閣府(防災担当)「防災における行政のNPO・ボランティア等との連携・協働ガイドブック ~三者連携を目指して~」平成30年(2018年)4月
・全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)「被災者支援コーディネーションガイドライン」.2022年3月
・全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)「災害支援ネットワークの手引き」.2025年9月

 

Photo by: PBV、Peri.、Social Good Photography, Inc、Suzuki Shoichi