家屋の保全・応急対応
(第1回)家屋の被害と生活再建に向けた課題
家屋の保全・応急対応は、「住み慣れた自宅で生活を再建したい」と願う被災者のための支援活動です。その中でも、一般の災害ボランティアには作業の難易度が高いニーズや支援は「技術系」と呼ばれます。全3回にわたり、被災家屋への技術系支援についてご紹介します。
*この記事は、2026年4月時点での情報を基に執筆しています。

1.「り災証明書」と公的支援
災害は、生活の基盤となる家屋(住家)に被害をもたらします。市町村が認定する「り災(罹災)証明書」における住家被害の程度は、「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」に区分されます。地震や台風では家屋の傾きや重要な構造物(屋根・外壁・柱)の被害を中心に、水害では浸水の深さ(高さ)も踏まえて認定されます。
り災証明書の発行は、被災者から申請を受けた市町村が担います。一次調査は外観に基づく判定ですが、内容に納得がいかない場合には、屋内調査を含む二次調査を依頼することが可能です。住民には、片付けや修理に着手する前に、建物の全方向の外観や各部屋の被害状況を写真で記録しておくよう案内しておきましょう。り災証明書の申請だけでなく、各種保険の手続きを進める際も必要です。
大規模災害で災害救助法が適用されると、全壊だけでなく半壊以上の家屋も公費解体の対象となる場合があります。解体費用は公費で賄われますが、当然ながらその後の住宅再建には多額の費用が必要です(参考:内閣府「防災情報のページ:住宅・生活再建にはこんなにお金がかかる」)。「被災者生活再建支援法」では、被害の程度や住宅の再建方法に応じて最大で300万円が支給されるほか、自治体独自の上乗せ分や義援金が加算される場合もありますが、新築費用のすべてを賄うことは困難です。
公費解体申請の受付期間が短いことで、修繕の選択肢を十分に検討できずに申請を進めてしまい、あとで後悔した被災者の声も聞いています。新築建て替えではなく、修繕を選択する場合は災害救助法に基づく「住宅の応急修理制度」を活用できる場合があり、最大で約70万円の修繕費用がカバーされます。
家屋の保全や応急対応は、単なる技術的な対応にとどまりません。被災者が自宅での生活再建をどのように実現していくかを、伴走しながら共に考える活動です。建物に関する専門知識はもちろん、公的支援制度の概要を把握しておくことで、支援の幅は広がります。活用できる制度は多岐にわたり、災害の度に見直しや拡充が進められています。常に最新の情報にアップデートをしておきましょう。
(各種支援制度の参考:永野海「被災者情報さぽーとぺーじ「ひさぽ」」)

2.「技術系ニーズ」と「技術系支援」
屋根上での高所作業や、床下に潜っての清掃・消毒など、被災家屋の保全や応急対応の活動には高度な知識と技術、そして安全管理が求められます。このほか、重機を用いた土砂や流木の撤去、倒壊の恐れがある建物内からの貴重品類の取り出しなど、専門性を必要とする一連の作業を、災害支援の現場では「技術系ニーズ」、あるいは「技術系支援」と呼んでいます。
重機を使った土砂の除去作業の様子
災害現場には、行政主導の災害復旧工事や、民間業者による有償の工事もあります。しかし、その対応範囲には限界があり、大規模災害時には圧倒的に業者の数が不足します。例えば、破損した屋根瓦の葺き替えを依頼しても、着工までに1~2年待ちになるケースは決して珍しくありません。当面の雨漏りを防ぐためには屋根にブルーシートをかけるなどの応急処置が必要ですが、安全管理や専門技術が必要な作業で一般の災害ボランティアには対応できません。被災者自身の対応にも限界があります。
行政、民間業者、災害ボランティア、そして被災者本人にも対応できない隙間を埋めるため、被災地での活動経験や建築などの職業スキルを活かした「技術系の災害支援団体」の活動が注目されるようになってきました。どのような種類の活動があるのか、その全体像を可視化するため複数の団体が協議し、2025年に技術系ニーズ作業の一覧表を作成しました。

出典:JVOAD技術系専門委員会「災害ボランティアセンター 技術系ニーズ作業区分」(2025年)
3.自治体、社会福祉協議会、NPOの三者連携
家屋の被害に留まらず、被災者が抱える複合的な課題を解決するためには、他の支援者や関係機関との密接な連携が不可欠です。 ピースボート災害支援センター(以下、PBV)は、外部支援団体として被災地に入る際、現地の自治体や社会福祉協議会(以下、社協)との信頼関係の構築を大切にしています。前述した公的支援制度の窓口であるとともに、「災害ボランティアセンター」や「地域支え合いセンター」など、被災者の生活再建に欠かせない支援を担う機関だからです。
家屋対応の作業前には、被害状況や意向確認のために被災者宅の個別訪問をしていますが、その際はできる限り自治体や社協の担当者と同行することを心がけています。近年は修理業者を装った詐欺の事例もあり、見ず知らずの外部支援者に対して不安を抱く被災者も少なくありません。地元の職員が同行することで、その不安を和らげる効果があります。
同時に、同行して会話をする中で、災害対応に当たる現地職員に対して他の被災地での事例や災害特有の知見を共有する狙いもあります。梅雨時期に発生した水害の現場で話をしていると「お盆までに活動を完了させたい」と言われ、過去のPBVの経験からは最低でも年内は対応が必要だとギャップを感じることもあります。多くの自治体や社協にとっても、大規模災害への対応は初めての経験です。地域事情や立場の違いは尊重しつつも、被災者の生活再建という共通のゴールを見据えて、初期段階から自治体、社協、NPO等の三者の目線(認識)合わせをしておくことは極めて重要なプロセスです。
市町村や社協の担当者と共に個別訪問するPBVスタッフ
4.現地調査と被災者とのコミュニケーション
作業前の現地調査は、とても重要です。被害状況と被災者の意向を確認しなければ、適切な作業工程や必要な資機材、活動人数が決まりません。しかし、被災者にとって「自分の家のことを他人に依頼をする」という行為は、心理的にもハードルが高いものです。初めて訪問すると、支援が必要な状態であっても「うちは大丈夫です」と断られるケースが少なくありません。その背景には、厳しい現実を直視したくないという気持ちがあったり、他人や周囲への遠慮、制度や修繕方法への理解の難しさ、費用負担の不安、被害を受けた自宅を他人に見せることへの抵抗感など、さまざまな理由が重なっているのでしょう。
初回の現地調査で、すぐに依頼につながるとは限りません。何度か訪問して状況を共有したり、あえて一度時間を置いたりしながら、被災者自身が納得して判断できるタイミングを待つことも選択肢の一つです。近隣の家で安全かつ丁寧に作業を進めている状況を見てもらうことで、「やっぱりうちもお願いしようか」と思い直して依頼につながるケースがあるからです。
また、口頭の説明だけでなく、視覚的なアプローチも有効です。被災者と一緒に床下を覗き込んで被害状況を共有したり、屋根の被害であれば写真やドローン映像をその場で確認してもらうなどの工夫を凝らしています。
一緒に床下を覗き込みながら、被害や作業について説明する様子
写真やドローン映像を見せながら、一緒に屋根上の状況を確認する様子
こうした視覚的なアプローチは、複雑な各種支援制度の解説にも取り入れています。現地調査などの際には自治体が発行する公的支援制度の案内を持参しますが、初めて目にする被災者にとっては、文字内容だけではそう簡単に理解が追い付きません。2018年の西日本豪雨の際にこの課題に直面した岡山NPOセンターは、水害編・地震編に分けてイラスト入りの「復旧ロードマップ」を作成しました。被災自治体の案内を視覚的に補足できるツールとして、PBVでも被災者に説明する際の補助資料として活用しています。
*岡山NPOセンター「復旧ロードマップ水害編」
*岡山NPOセンター「復旧ロードマップ地震編」
5.家屋対応の「その後」を見据える
「災害は、平時からの課題を浮き彫りにし、さらに加速させる」と言います。家屋の被害は、単に建物の問題として現れるだけでなく、その人の暮らし方、世帯の状況、経済的な事情、地域とのつながりを知るきっかけにもなります。平時から地域で孤立していた世帯には支援の情報が届きにくく、生活困窮世帯は公的支援を活用しても自己負担分の修繕費を捻出できません。自力での作業が困難な独居の高齢者世帯などでは、濡れた床や壁、天井のカビが長期間放置されてしまうリスクが高まります。家屋対応の依頼を受けて出会う被災者の中には、災害前からこうした複合的な生活課題を抱え、他に頼るあてがない人が少なからず含まれていることを、常に頭に入れておきましょう。
家屋の保全・応急対応は、あくまで応急的かつ一時的な支援活動です。ただ、被災者のプライベートな生活空間である自宅に立ち入り、作業工程によっては何度も顔を合わせる機会があるはずです。その中でちょっとした違和感を覚えたり、「見えないSOS」に気づくことがあるかもしれません。いずれは現地を離れる外部支援者には直接的な対応が難しくとも、そのSOSを地域の支援先に繋ぐことはできます。技術的な作業の完了が家屋対応の役割ですが、「その後」の生活再建を見据えて小さな違和感に気づき、必要な支援先へ繋ぐこと。これは、技術系支援にできるもう一つの重要な役割と言えるのではないでしょうか。
第1回目は、公的支援制度の概要も含め、災害時の家屋対応の課題や支援のあり方について、その全体像を紹介しました。第2回目以降はさらに踏み込んで、屋根と床下における技術系支援の具体的な活動内容を紐解いていきます。
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