家屋の保全・応急対応
(第2回)技術系の専門支援 ~屋根編~
屋根の応急対応は、単に雨水の侵入を防ぐだけでなく、被災者が自宅での生活を続けられるかどうかに関わる重要な支援活動です。対応できる専門業者の数も圧倒的に不足する中、被災地ではNPOなどの災害支援団体による「技術系支援」が行われています。
*この記事は、2026年4月時点での情報を基に執筆しています。

1.屋根の応急対応 14の工法
地震や台風の被災地を訪れると、多くの家屋の屋根にブルーシート(防水シート)がかけられている光景を目にします。強い揺れや強風によって、瓦などの屋根材が損傷します。その部分から雨水が侵入すると、建物の被害は拡大し、カビの繁殖による悪臭や健康被害にもつながるため応急的な対応が施されているのです。
台風による屋根の被害(2019年、千葉)
雨漏りによってカビが繁殖した天井や壁の様子
本来であれば、速やかに新しい瓦への葺き替えといった修繕工事を行うのが理想ですが、そのためにはまとまった費用と時間がかかります。地域一帯で被害が出ていれば、施工業者への依頼が殺到し、長ければ着工までに1~2年待ちの状態になることも珍しくありません。修繕工事までの雨風をしのぐ応急対応として、発災初期には「とりあえず」ブルーシートを被せているケースが多く見受けられます。
屋根上作業は危険度や難易度が高く、一般の災害ボランティアが対応するのは困難です。そのため被災地では、被災者自身が危険を承知で屋根に上ったり、地元の消防団や地域の支援者が限られた資機材の中で応急的に処置しているケースもあります。ただ、専門的な知識や技術が不足していたり、災害直後で資機材が十分に確保できないといった条件下での対応であれば、隙間から雨水が侵入したり、強風でシートが簡単に剥がれるリスクがあります。また、一度展張したブルーシートも時間の経過とともに劣化します。シートの素材や固定方法、日射や風雨の影響にもよりますが、1か月〜数か月で張り直し作業が必要になります。
こうした状況下で、屋根被害への対応を担うようになってきたのが技術系の災害支援団体です。ピースボート災害支援センター(以下、PBV)もその団体の一つで、災害現場では他の専門団体と連携しながら活動しています。応急対応の方法(工法)は、損傷の状態や団体それぞれの判断で異なりますが、参考までに「14の工法」を一覧で紹介します。
※工法の選択は、損傷具合や作業時間、コスト、耐久性などから総合的に判断しています
※上記の14の工法は、2021年にJVOAD技術系専門委員会で議論・整理したものです
※表中の「BS」はブルーシート(♯3000を推奨)、「SS」はシルバーシート(♯4000を推奨)の略称です
2.作業手順の一例(耐久性重視)
2019年の台風15号では、千葉県内で8万棟を超える家屋(住家)被害がありました。多くの住民が応急的にブルーシートをかけていましたが、やはり業者不足や経済的な理由から本格的な修繕工事の見通しが立っていませんでした。そこでPBVでは他団体とも協議し、防水シートの張り直し作業を実施する際は、なるべく中長期的な保護が可能な耐久性の高い素材と工法を選択することにしました。当時の具体的な作業手順は以下の通りです。
①既存のブルーシートを剥がして、改めて正確な損傷箇所を特定する
②再利用できる瓦と割れた瓦を選別し、割れた瓦はガラ袋に入れて地上に降ろす
③再利用できる瓦を敷き直し、対応箇所(むき出し部分)を1か所に集約する
④固定先となる屋根下地(垂木)の位置を確認する
⑤傷んだ瓦桟、下葺き材(ルーフィングなど)を剥がし、土やゴミを取り除く
⑥雨の侵入を防ぐため、軒先(下側)から新しい下葺き材(防水ルーフィング)を貼る
⑦シルバーシートを固定するための胴縁や木材を設置する
⑧シルバーシートの固定とシリコンコーキング(ビス穴から雨水の侵入を塞ぐ)
⑨屋根の棟(むね)の損傷には、ブルーシート廃材などのクッション材を入れて対応する
⑩粘着ルーフィングや風によるバタつき防止などを施して仕上げる
なお、作業に入る前には応急対応の目的、作業範囲、使用する資材、想定される耐用期間、本復旧ではないことを被災者に説明し、同意を得たうえで進めることが大切です。
いくつかの工程の写真もご紹介します。
*イメージを補うため、以下の説明用の写真は一部異なる家屋のものを使っています
②再利用できる瓦と割れた瓦を選別し、割れた瓦はガラ袋に入れて地上に降ろす
③再利用できる瓦を敷き直し、対応箇所(むき出し部分)を1か所に集約する
⑥雨の侵入を防ぐため、軒先(下側)から新しい下葺き材(防水ルーフィング)を貼る
⑧シルバーシートの固定とシリコンコーキング(ビス穴から雨水の侵入を塞ぐ)
⑨屋根の棟(むね)の損傷には、ブルーシート廃材などのクッション材を入れて対応する
ここで紹介した工法はあくまで一例です。相応の費用・時間・人手・技術が必要となるため、PBVが常にこの工法を選択しているわけではありません。各団体のリソースも踏まえ、状況に応じて他の素材や工法を柔軟に検討してみてください。
3.安全管理と装備品
屋根上での作業は、一歩間違えれば墜落などの重大な事故に繋がりかねません。多くの依頼が寄せられていると、「少しでも早く、1件でも多く対応したい」と焦りが生まれがちですが、安全管理の徹底こそが最優先です。墜落制止器具などの装備品や資機材は、説明書を確認するだけでなく、必要な教育や訓練を受け、事前に使い慣れておくことが不可欠です。また、定期的な点検とメンテナンスも忘れないようにしましょう。

装備品や資機材の一例(出典:「JVOAD技術系専門委員会「被災家屋への対応事例_屋根の対処編」.2021年3月」より抜粋)
災害現場では、「被害の大きさ」だけではなく、「安全に作業ができる環境かどうか」を見極めることも、依頼を引き受ける上での重要な判断基準です。当日の天候、墜落制止用のロープを固定できる場所、水や電気の使用可否など、現地調査では被害状況以外の周辺環境にも目を向けるようにしましょう。自分たちの装備や技術では安全な作業が難しいと感じる現場であれば、今回は活動を見送るという選択肢の検討も必要です。
必ず複数人のチーム体制で行う、はしごの昇降時は別の作業者が支える、屋根上だけでなく地上側にもメンバーを配置して見守る、こまめな休憩を挟むなど、実際に作業にあたる際の安全管理にも手を抜かないようにしましょう。万が一の場合に備えた救急セットの準備や、通信状況の確認も含めた緊急連絡体制の構築も事前に行っておきましょう。
4.屋内の被害も確認しよう
屋根に被害があるということは、すでに雨漏りによる屋内の被害が発生している可能性があります。濡れた床の拭き掃除であれば被災者本人が対応できるかもしれませんが、天井や壁の裏、断熱材まで手が回っていないのではないでしょうか。今回は屋内作業の詳細は割愛しますが、断熱材の撤去や内部の乾燥・消毒といった屋内作業も同時に検討できることが望ましいでしょう。
また、屋根の応急対応をきっかけに屋内の状況を確認することで、カビの発生はもちろん、寝室や生活動線への影響、在宅避難の継続可否など、暮らしに関わる課題が見えてくることもあります。技術的な家屋対応ではなく、生活支援など別のアプローチが必要であれば、他の支援先に繋ぐ選択肢も検討しましょう。
天井の断熱材を撤去する作業の様子
5.担い手の育成と技術の向上
実は、「屋根に防水シートを張る」ことを専門とする職種や業種は存在しません。屋根の葺き替えや修理のプロはいますが、通常の施工内容と災害時の応急対応は異なります。これまで一部の技術系の災害支援団体が被災地での経験を積み重ねてきましたが、そうした団体の総数は全国的にも決して多くはありません。
近年では、防水シート張りや安全管理を学ぶ講習会が企画されるようになり、各地域で担い手の育成を進める動きが見られるようになりました。また、JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)では、技術系の災害支援団体が中心となり、作業の工法や安全管理などをまとめた事例集を作成しています。支援方法の参考や技術の向上に、ぜひお役立てください。
JVOAD技術系専門委員会「被災家屋への対応事例_屋根の対処編」.2021年3月
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