家屋の保全・応急対応
(第3回)技術系の専門支援 ~床下編~
水害の被害は全国的に拡大しています。床下に入り込んだ泥や土砂を放置すると、異臭やカビの原因になります。本格的な修繕工事に至るまでにはどのような支援が求められるのか、今回は、その作業手順を具体的に見ていきましょう。
*この記事は、2026年4月時点での情報を基に執筆しています。
*被害状況の写真撮影、現地調査などの実作業前のステップの紹介は省略しています。

【被災状況の想定】
家の構造 :木造2階建ての一軒家
家族構成 :高齢の夫婦二人
被害状況 :浸水(床上20cm)と土砂の流入。1階の家財道具の多くが汚損・破損
居住環境 :ライフラインは復旧、2階で在宅避難生活を続けている
1.家財の搬出
屋内を空にして作業するため、まずは濡れて汚損した家財道具を屋外へ搬出します。その際、建物や家財の損傷、さらなる汚れの拡散を防ぐため、動線となる箇所にブルーシート等で養生をしておきましょう。搬出した家財は、被災者本人の意向を丁寧に確認しながら、「洗浄して再利用するもの」と「廃棄するもの」に分別し、保管方法や置き場を選定します。今回のケースのように2階での在宅避難を続ける場合、再利用が可能で生活に必要な家財は、拭き掃除などを済ませた上で2階に移動させるなどの配慮も忘れないようにしましょう。
家財の搬出や分別は、一般の災害ボランティアが担える作業でもあります。災害ボランティアセンター(災害VC)や関係機関と調整しながら、一般ボランティアと技術系支援がそれぞれ担当する範囲を整理し、役割分担して進めることも大切です。

2.床上の泥・土砂の除去
床上に堆積した泥や土砂を取り除きます。あわせて、浸水して水を含んだ壁への対処も必要です。特に水害が発生しやすい夏場の作業は暑さとの闘い、体力勝負です。しっかりと熱中症対策をして作業に臨みましょう。このステップも一般の災害ボランティアが活躍できる作業なので、災害VCとも連携しながら、必要な人員を確保して進めることが大切です。
また、屋内だけでなく庭などの敷地内の泥や土砂の除去も必要です。スペースがあれば、技術系の災害支援団体による小型重機の活用が検討できる場面かもしれません。ただ、高度な技術や安全管理が求められる作業なので、オペレーターや誘導員の配置、作業範囲の安全確保、建物や配管への影響など、十分に検討したうえで判断するようにしましょう。

なお、下記以降のステップ3~7は一般のボランティアには難易度が高く、主に技術系支援による対応が中心となる場面です。被害件数が多ければ、専門チームが着手できるまでに日数が空く可能性があります。その間も、床上・床下を問わず、できる所から少しでも乾燥を進めておきましょう。
3.床板の撤去(一部・全部)
確かに、床板を全部撤去してしまえば、その先の床下作業は進めやすくなります。ただし、面積や材質によりますが、その後の床全面の修繕費用は高額になり、住宅の応急修理制度を活用する場合でも、対象となる工事の範囲や上限額次第では被災者の自己負担が生じる可能性があります。また、床板を撤去する範囲によっては生活スペースが限られ、在宅避難を続けにくくなることもあります。費用面と合わせ、その後の暮らしへの影響も考慮して判断するようにしましょう。
そのため、作業の難易度は上がりますが、あえて床板の一部分のみ撤去し、開口部から床下に潜って作業を進める方法も有力な選択肢です。その後の生活再建の方向性に大きく影響する選択なので、丁寧に被災者本人に説明し、意向を確認しながら方法を検討しましょう。

4.断熱材の撤去
水を含んだ断熱材は自然乾燥が難しく、放置するとカビや異臭の原因となるため、原則としてすべて撤去します(天井や壁の断熱材も同様です)。特に床下に潜っての撤去作業は、相当な重労働になります。複数人での役割分担や交代を行い、安全第一で無理のないペースで進めていきましょう。

5.床下の泥・土砂の除去
床下に堆積した泥や土砂をすべて取り除きます。発災からの時間経過や天候によって、泥の状態は変化し、作業に使う資機材の種類も変わります。また、後々のカビ発生を抑えるため、床下だけでなく木材に付着した泥や土砂を拭き上げるなど、作業は徹底して行いましょう。加えて、布基礎など、床下の地面が土のままになっている住宅では、泥の撤去時に既存の床下地盤を必要以上に掘り下げないよう注意してください。
なお、開口部から床下に潜る作業は専門性が高いですが、もしステップ3で床板を全部もしくは大部分を撤去している状態であれば、上部からのアプローチが可能で一般の災害ボランティアでも対応がしやすい作業です。ただし、床下の泥や汚れを屋内の生活空間に広げないように作業動線上に養生をしたり、資機材の置き場、土砂の運搬経路を事前に確認しておくようにしましょう。

6.乾燥、消毒
泥・土砂の除去後は、風の通り道を確保するとともに、扇風機やサーキュレーターなどを使って徹底的に乾燥させます。乾燥の目安は1か月程度とされていますが、天候や地域性によって乾燥期間は変動します。技術系の災害支援団体では、水分計などの専用機器で状態を確認しながら継続や終了の判断をしています。
なお、カビの発生が懸念される箇所には消毒を施す場合もありますが、常に必要な作業ではありません。まずは泥や汚れを取り除き、十分に乾燥させることが基本です。

7.「仮床」の設置、家財の再搬入
床板の撤去が一部分であれば、床下の乾燥後に屋外等で保管していた家財道具を元の位置に戻します。一方で、床板全部を剥いでしまっていれば、ステップ8の修繕工事を待つことになります。ただ業者の対応が数か月後になるかもしれず、夏に発生した水害であっても、この頃には季節が変わり、冬の寒さ対策が必要かもしれません。在宅避難を続けるための生活環境や寝床を確保する必要がある場合には、状況に応じて、災害支援団体が合板などの板材で「仮床」を設置することがあります。

ただ、仮床はあくまで応急的な対応です。当面の生活はしやすくなる一方で、本来必要な修繕工事につながらず、仮床のまま長期で生活を続けてしまう可能性があります。技術系支援として、常に「何でも対応する」ことが正解とは限らないことも認識しておきましょう。
8.修繕
正式な床板の設置など、本格的な修繕工事は地元の工務店やリフォーム業者が担う領域です。ステップ1~7で紹介した内容も含め、「どこまでの作業が支援の範囲で、どこからを専門業者に委ねるべきか」の明確な基準はありません。私たちも、状況に応じて臨機応変に対応しているのが正直なところです。
しかし、外部支援者が良かれと思ってすべての作業を無償で引き受けてしまうことが、結果として被災者自身による支援制度の利用や専門業者との接点を遅らせたり、地域経済の再生に影響を及ぼしたりすることもあります。線引きの判断は非常に繊細ですが、「任せるべきことは任せる」という視点を持っておくことは、支援者として大切にしておきましょう。
今回のシリーズでは、家屋対応に対する技術系のニーズと支援について特集しました。実際の家屋対応には屋根や床下以外も含まれますし、家屋以外への技術系支援の活動もあります。また機会があれば、これらの内容についても改めてご紹介したいと思います。
なお、ご紹介した作業手順や判断基準は、あくまでPBVが過去に経験してきた活動の一例です。技術系の支援は、まだまだ発展途上で進化を続けている分野です。読者の皆さまとも、災害現場や研修会でご一緒する機会があれば、ぜひ積極的に情報交換をしながらより効果的な支援を共に追求していきたいと思います。
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