避難所の運営支援
(第1回)中長期化する避難所
大規模災害が発生した際、避難所の開設期間は数か月に及びます。過酷な避難生活が続けば、「災害関連死」にもつながります。被災者が抱える課題は多様で、一人ひとりへのきめ細かい対応も必要です。本シリーズ(全4回)では、中長期化する避難所が直面する課題とその対応策を掘り下げていきます。
*この記事は、2026年2月時点での情報を基に執筆しています。

1.「一時的な避難場所」から「生活の場」へ
大規模災害時における避難所(広域避難を除く)の開設期間は、どの程度だと想像されるでしょうか。ピースボート災害支援センター(以下、PBV)が活動した被災地の事例では、東日本大震災で約7か月(2011年・石巻市)、熊本地震で約6か月(2016年・益城町)、西日本豪雨で約5か月(2018年・倉敷市真備町)もの間、避難所が開設されていました。さらに、地震と豪雨の二重被災となった能登半島地震・奥能登豪雨(2024年・輪島市)では、1年3か月もの長期に及んだケースもあります。
中長期化した避難所の役割は、「一時的に避難する場所」から「生活の場」へと変化します。しかし、学校の体育館や公共施設などの市区町村が定める指定避難所には、本来、調理・洗濯・入浴といった生活の機能は備わっていません。働き盛りの若者・現役世代は、日中は学校や仕事、自宅の片づけに出払うため、日中の避難所は数人の高齢者が残るのみとなります。避難所の「自主運営」の精神は大切ですが、被災者任せでは限界があります。行政や民間の支援、ボランティアによるサポートは不可欠なのです。
避難所運営会議の様子(2018年、岡山県倉敷市)
内閣府(防災担当)の「避難所運営ガイドライン(2016年)」では、「(避難所は)住まいを失い、地域での生活を失った被災者の拠り所」となり、また「在宅で不自由な暮らしを送る被災者の支援拠点」と定義しています。本シリーズでは、学校や公共施設などの「指定避難所」に焦点を当てますが、車中泊や在宅避難を続ける被災者の支援も忘れてはならないテーマです。このテーマについては、改めて別の機会にご紹介したいと思います。
2.避難所のフェーズ(開設から閉所まで)
- ~開設と一時的な避難~
風水害の場合には、避難所は災害が発生する前に開設されるのが一般的です。受け入れ準備の担当者と、近隣の高齢者住民が先行して集まり、その後徐々に人が避難してくる流れです。発災後に避難所を開設する地震の場合には、一気に人が押し寄せます。都市部では帰宅困難者も混在し、避難所は「すし詰め」状態になるでしょう。
老若男女が密集する避難所(2011年、宮城県石巻市)
学校の体育館の平均的な広さは、700~800㎡。近年は人道支援の国際基準(スフィア基準)に合わせて一人当たり3.5㎡(以前は2㎡)が推進されるようになり、通路や生活スペースを考えない単純計算で約200人のキャパシティです。とはいえ、開設初期はその3倍程度の人数がひしめき合って体育館で雑魚寝をしていたり、溢れた人は通路や一部の教室、屋外、駐車場で車中泊などをしています。この段階では、名簿管理すらできる状態ではありません。
- ~中長期の避難所生活~
水が引き、余震が収まれば、一時避難者はその避難所から移動します。建物が無事で、ライフラインが復旧すれば近隣住民も自宅に戻りますが、大規模な災害では数週間から数か月を要します。当面自宅に戻れない被災者が残り、避難所が「生活の場」に変わり、環境整備や個別の被災者対応にも力を注ぐフェーズです。この時期の避難所の実態は報道も少なくほとんど知られていないため、2回目以降の記事で詳しく紹介していきます。
段ボールベッドとパーティション設置後の避難所(2018年、岡山県倉敷市)
- ~避難所の統廃合と閉所~
避難所に残っている被災者の多くは、避難所で仮設住宅への入居待ちです。特に建設型の仮設住宅は全戸の完成までに数か月かかるため、避難所の開設期間が中長期化するのはこのためです。避難者数が減った避難所は統廃合が進みます。被災者によっては、二度三度と別の避難所に引っ越しを余儀なくされるケースも出てきます。その後も被災者の生活再建支援は必要ですが、避難所としての役割は最後の避難者の退所をもって終了します。
閉所後の避難所(2024年・輪島市)
3.行政による避難所の準備は、どこまで進んでいる?
全国の指定避難所の数は8万以上。その運営体制はどうなっているのでしょうか。PBVが2022〜23年にかけて全自治体に対して実施した「避難所運営における困難や課題等に関するアンケート」(回答数延べ632件)からは、様々な課題が浮かび上がってきました。
*アンケートは、過去に1か月以上(中長期)の避難所運営の経験がある自治体と経験がない(経験があったとしても1か月未満の)自治体に分けて実施しました。
アンケート結果の考察を担当してくださった阪本真由美教授(兵庫県立大学大学院)は、多くの自治体に共通する課題として次の4点を挙げています。
① 避難所運営の職員の知識・経験・スキル不足
② 中長期化する避難所の運営への対応力
③ 災害対策本部や庁内他部署との情報共有体制の構築
④ 避難所の物資・食事をめぐるロジスティクス強化
最大の課題となった「職員の知識・経験・スキル不足」には、自治体ならではの事情があります。研修等で災害担当者を育成しても、当然ながら部署異動があります。また災害担当者は、災害時には基本的に災害対策本部の人員です。避難所の現場には、知識や経験が乏しい他部署の職員が配置されます。
さらに大規模災害では想定以上の避難所が開設され、そもそも職員の配置が不可能です。石川県輪島市では、約50人の市職員が15の避難所に分かれて配置される計画でしたが、2024年の能登半島地震で開設された避難所は最大で186(自主避難先含む)。計画と現実はまったく異なるものでした。行政側にはこれらの教訓を踏まえた準備を心がけてほしいと思いますが、市区町村のリソースには限界があります。だからこそ、自治体間の職員応援派遣(対口支援)や専門的な知見を持つ民間支援者の役割が重要視されるようになっています。
市の避難所担当職員とPBVスタッフ(2024年、石川県輪島市)
4.災害関連死を防ぐために
PBVが過去140以上の避難所の運営支援で大切にしてきたのは、「命・生活・尊厳を守る」という姿勢です。「生活」や「尊厳」の部分は次回以降の記事に譲るとして、ここでは「災害関連死」についてもう少し触れておくことにします。
災害関連死の認定は、阪神淡路大震災以降に始まりました。特に注目が高まったきっかけは、2016年の熊本地震。圧死などの直接死(58人)に比べ、災害関連死(215人)は約4倍に上りました。その多くは高齢者であり、原因はエコノミー症候群や誤嚥性肺炎、過度のストレスによる体調悪化です。最終的に自宅や医療機関で亡くなる場合でも、過酷な避難所生活が密接に関わっているケースはたくさんあります。「防げたはずの死」に対して、どのような対応が必要だったのでしょうか。
出典:震災がつなぐ全国ネットワーク
上のイラストは、災害関連死を防ぐために関係者がどのようなアプローチを取るべきかを描いたものです。治療やケアが必要な場合には医療・介護・福祉の専門職の出番ですが、その時点ではすでに勢いよく坂道を転がってしまっている状態です。深刻化する前の「ハイリスク予備軍」の段階でいち早く異変に気づき、食い止めることが避難所の役目です。「災害関連死ゼロ」を実現するためには、被災者自身、行政、施設の管理者、支援者それぞれの立場でできることを増やしていく必要があります。第2~4回目では、避難所の「場」「人」「運営」の3つの視点から具体的な課題と対応についてご紹介します。
・内閣府(防災担当)「避難所運営ガイドライン」,2016年
・内閣府(防災担当)「避難生活リーダー/サポーター 研修テキスト」(令和7年度更新版),2025年
・Sphere Association「スフィアハンドブック」(支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク訳),2018年
・震災がつなぐ全国ネットワーク「「ハイリスク予備軍」の人を見つけよう 解説冊子」,2016年
・特定非営利活動法人レスキューストックヤード「できることからはじめよう!避難所運営の知恵袋(改訂版)~みんなで助け合える避難所づくりのために~」,2019年
・公益社団法人ピースボート災害支援センター「避難所運営における困難や課題等に関するアンケート」,2023年