避難所の運営支援
(第2回)「場」の課題と対応
学校の体育館や公共施設などの指定避難所は、本来「人の生活」を想定して設計された場所ではありません。避難生活が中長期化すれば、食事、排泄、睡眠といった基本的な環境の整備はもちろん、集団生活特有の衛生管理や防犯対策なども必要です。今回は、生活環境(「場」)における課題とその対応について整理します。
*この記事は、2026年2月時点での情報を基に執筆しています。

大災害時の避難生活では、多くの不便と我慢を強いられます。数日であれば耐えられたとしても、過酷な環境が長引けば被災者の心身の健康を保つことは困難です。公費による避難所環境の改善に対し「贅沢ではないか」と指摘されることがありますが、目指すべきは「どれだけ人間らしく、その人らしい避難生活を送ることができるか」という視点です。これは個人の財産などに基づく「生活水準」とは根本的に異なり、尊厳に関わる問題です。ぜひ「被災者中心」の視点を持ち、以下の12項目について考えてみてください。
1.受付・玄関
受付・玄関は、避難所の「顔」になる場所です。受付では、被災者(入所者)だけでなく、来客や支援者の訪問時にも名簿に記名をお願いしましょう。また、物資や食事の必要数を正確に管理するため、退所者の把握も忘れずに行ってください。個人情報を扱うことになるので、慎重な管理が求められます。
玄関については、施設によっては靴置き場がないことがあります。衛生面を考慮し、ブルーシートでの色分け表示や仮設の下駄箱を設置するなど、動線を整理しましょう。
避難所の受付(2022年、熊本県多良木町)
2.物資の調達・管理・配布
避難所の開設直後は、支援物資は昼夜問わず運ばれてきます。受け入れ側の負担を軽減するため、なるべく配送時間を固定することをお勧めします。物資は、種類や配布のタイミングなどを考慮して整理しましょう。
荷運びなどの力仕事があるので男性が担当しがちですが、生理用品や下着といった女性向けの物資も含まれます。物資班に限らないことですが、チーム編成は男女のバランスを考慮しましょう。
避難所での物資管理(2022年、熊本県多良木町)
3.寝床
近年、避難所のTKB(トイレ・キッチン・ベッド)改善に向けて、全国的に段ボールベッドの導入が進んでいます。床から35cm以上の高さを確保することで、ホコリの吸い込みを防ぐ衛生面のメリットや、立ち上がりやすさによる生活不活発病の予防などの複数のメリットがあります。また、ベッドの設置で終わらせず、間仕切りによるプライバシーの確保、枕・布団の調達、シーツの洗濯・交換といった運用面までの対応を心がけましょう。

寝床スペースについては、以前は一人当たりの2㎡が目安でしたが、現在では国際的な人道支援基準(スフィア基準)に合わせた一人3.5㎡が推奨されています。避難所の施設数が限られる中、「一人でも多く避難所で受け入れること」と「一人ひとりが十分なスペースを確保すること」の板挟みになる場面もあるでしょう。運営側で話し合い、その時々の最善策を柔軟に探ることが大切です。
4.トイレ・洗面所
断水や停電で既存のトイレが使えない場合には、災害用トイレが代替手段になります。災害用トイレには、凝固剤などで固める便袋タイプの「携帯トイレ」、便座組立式の「ポータブルトイレ」、テントなどの一式がセットになった「組立式トイレ」、工事現場やイベント会場で見かけるいわゆる「仮設トイレ」、下水道につながった「マンホールトイレ」、移動式の「トイレカー(トレーラー)」などがあります。より多くの人が安心して使えるトイレが望ましいですが、十分な数を揃えるには時間がかかります。大規模災害時には、状況に合わせて数種類の災害用トイレを組み合わせて使用することになります。
避難所に設置したポータブルトイレ(一例)
また、トイレ問題は、「モノ」だけでなく、設置・使用・維持・清掃・回収などの一連の「システム」として捉える必要があります。その他、断水中はコック付きの水タンクで手洗い場を代用したり、屋外の仮設トイレまでの動線に照明を設置したりといった対応も必要です。行政側では、広域での排泄物の回収と処理が必要になるため、平時からシミュレーションしておきましょう。
5.食事
避難所での食事は、保存食やカップ麺に始まり、支援物資の水や食料品、行政からのおにぎり・パン・お弁当へと変化していきます。避難所が開設されている間は食事の提供が続きますが、栄養が不足します。お惣菜や乳製品などの補助食品を追加したり、お味噌汁などの汁物の炊き出しといった民間の支援も積極的に活用しながら栄養バランスを補っていきましょう。
避難所での炊き出し(2022年、熊本県多良木町)
また、食事スペースの確保も重要です。寝床での食事は、食べ残しや食べこぼしにもつながりがちです。集まって食事をする場は、貴重なコミュニケーションの機会でもあります。その他、冷蔵庫や電子レンジの設置など、配膳時間に間に合わない人のための取り置きや温めができる環境の整備も検討しましょう。
6.衛生環境と健康
密集した集団生活では、感染症のリスクが高まります。感染者の隔離スペースが必要であれば、学校や施設管理者と別室の確保を相談してください。過去には、「汚れたトイレに行きたくない」という理由から水分を控え、体調を崩した事例も多く報告されています。清掃には特定の人に負担がかかり過ぎないように当番制を導入するなどの工夫も検討し、各スペースが清潔さを保つことが健康維持の第一歩です。
(避難所の感染症対策のご参考に)
新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック第4版(2021年5月26日発行)
避難所の消毒や衛生管理(2022年、熊本県多良木町)
7.各種生活スペース
避難所では、更衣室や授乳スペース、洗濯機や物干し場、要配慮者向けの福祉スペース、子どもたちの遊び場や学習スペースなど、対象者に合わせた様々な用途のスペースを確保するように努めましょう。生活再建に向けた相談窓口の設置など、被災地特有の機能も必要になります。スペースが不足する場合には、同じスペースでも「午前中は学習、午後は相談スペース」などの形で、時間帯で用途を区切る工夫をしてみましょう。
避難所に設置された洗濯機と干し場
8.入浴
避難所での入浴は、ウェットティッシュや専用シートでの清拭、自衛隊や支援団体が設置する仮設風呂・シャワー、施設付帯のシャワー等設備の利用、近隣の入浴施設への送迎、移動入浴車など、段階的に入浴機会を確保していきましょう。仮設風呂は手すりがなかったり、滑りやすかったりと高齢者等の利用には注意が必要です。また洗い場だけでなく、脱衣スペースにも工夫をしましょう。
9.施設の管理、整備
避難所となった施設(学校など)には、本来の役割があります。個人情報の保管場所など、外部者を立入禁止とすべきエリアもあるでしょう。また、授業再開に伴い、避難所として昨日まで使用できた場所が使えなくなる状況も想定されます。その他、避難所に電子レンジや洗濯機などを設置に伴う電圧の変更工事の依頼など、施設側とは随時情報共有と相談ができる体制を構築しておきましょう。
10.暑さ・寒さ対策
冷暖房が設置されていない(もしくは停電している)避難所の暑さ対策には工夫が必要です。濡れたタオルで首や脇、股下を冷やしたり、経口補水液を作って熱中症対策をしたり、電気に頼らない知恵は、いざという時の役に立ちます。夏場は、換気や風を通すために窓を開けると虫が入ってくるので、網戸を設置して対策をしたこともあります。同様に、冬場には寒さ対策が必要です。季節に合わせた環境整備を進めていきましょう。
避難所への網戸設置(2024年、輪島市)
11.情報提供・情報共有
避難所の運営者の元には、「目立つところに掲示して、被災者に周知してほしい」と、毎日のように大量の情報が届きます。ただ、送られてきたチラシ類は、内容や日付、字の大きさもバラバラです。きちんと読んでもらうためには、掲示板の整理が必要です。
避難所の掲示板
また、掲示板の情報が増えると逆に大切な情報が埋もれてしまいがちです。運営側で優先度の高い情報を「避難所新聞」に再編集し瓦版として配布したり、理解を深めてもらうためには質疑応答ができる説明会を開催するなど、内容に適した情報提供・共有方法を工夫してみましょう。大事なのは、「伝えた」ではなく「伝わった」かどうかです。
避難所での各種説明会
12.安全管理
被災地での生活は疲労やストレスが溜まります。注意力が低下して、ケガや体調不良のリスクは高まっています。イライラして子どもや家族に強く当たってしまったり、DV・ハラスメントの事例も報告されています。残念ながら、災害に乗じた不審者・詐欺被害もあります。夜間は外注の警備員を雇うなど、「個人の注意」に頼り過ぎない防犯体制も検討してください。
本来、これらの12項目それぞれ1本の記事で詳しく解説したいところですが、今回は全体像を把握してもらうことを優先しました。実際の現場では、資機材や備品の調達、設置の段取り、定期的な掃除やメンテナンス、閉所後の回収に至るまで多くの作業が伴います。ほとんどの人が初めての経験で、戸惑うのは当然です。運営側で話し合い協力しながら、一つずつ「場の課題」に向き合っていきましょう。
・内閣府(防災担当)「避難所運営ガイドライン」,2016年
・内閣府(防災担当)「避難生活リーダー/サポーター 研修テキスト」(令和7年度更新版),2025年
・Sphere Association「スフィアハンドブック」(支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク訳),2018年
・震災がつなぐ全国ネットワーク「「ハイリスク予備軍」の人を見つけよう 解説冊子」,2016年
・特定非営利活動法人レスキューストックヤード「できることからはじめよう!避難所運営の知恵袋(改訂版)~みんなで助け合える避難所づくりのために~」,2019年
・公益社団法人ピースボート災害支援センター「避難所運営における困難や課題等に関するアンケート」,2023年