食事支援・炊き出し

(第1回) 被災地での「食」の課題と、炊き出しの役割

温かく栄養があって美味しい食事は、被災者の心身の健康を支えます。一方で、資機材や食材の調達、衛生管理など、被災地での炊き出しには通常とは異なる難しさがあります。被災地での「食」の課題と支援について、全3回シリーズでご紹介します。

*この記事は、2026年2月時点での情報を基に執筆しています。


1.被災地での「食」の課題

食は、命とエネルギーの源です。しかしながら、被災地では食を取り巻く環境が一変します。大災害では、停止した電気やガス、水道などのライフラインの復旧には時間がかかります。買い物や食事ができる店舗も被災し、自炊も外食もできない環境に置かれます。数日間は、備蓄品でやり過ごすことが必要かもしれません。自宅や地域での備蓄は大切です。

その後、カップ麺やレトルト食品、アルファ化米などの支援物資が避難所などに届き始めますが、被災規模が大きければ物流への影響が長引きます。2024年の能登半島地震では、発災から2週間が経過しても、朝食で分けることができたのは1人煎餅2枚だけといった避難所もありました。各自が持ち寄った食料でしのいでいましたが、気力と体力がいつ切れてもおかしくない状況でした。そんな過酷な環境下での炊き出しは、まさに被災者の心にも体にも栄養を届ける支援です。

確かに被災者への食の支援は、第一義的には行政の義務です。もっと大規模な災害を想定しておくべきだと思います。ただ、行政機能や職員も被災して混乱している現場に「行政が対応すべき」と正論を持ち込んでも、なかなか状況は改善しません。私たちピースボート災害支援センター(以下、PBV)は、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、能登半島地震(2024年)などの被災地の現場で活動しながら、食事支援や炊き出しのあり方を模索してきました。今回は、現場で直面した課題の数々を一緒に考えていきたいと思います。

2.行政の対応と食品の給与

災害時、行政は住民を守るための様々な機能を担います。市区町村だけでは対応が困難な大規模災害では、都道府県や国が応援します。「災害救助法」では、あらかじめ「食品の給与」について1人1日当たり1,390円分、7日間の予算措置がされています(2026年1月時点)。これは一般基準ですが、被害状況に合わせた特別基準の設定も可能で、増額や期間延長についても柔軟に対応する旨が記載されています。この災害救助法を根拠に、被災者への毎日の食品が手配されています。
内閣府防災情報「3 炊き出しその他による 食品の給与 4 飲料水の供給」

依頼を受けた食品メーカーなどは、準備が整い次第、発注された避難者分のパンやおにぎり、お弁当を手配します。ただ、大規模災害では地元業者が被災し、発注先が遠方になることもあります。能登半島地震では、金沢の工場が被災し名古屋から手配に切り替えましたが、交通事情が悪く、避難所に到着する頃には消費期限切れになる事態も発生しました。輪島市ではPBVも食事手配のオペレーションに協力しましたが、対象となった避難者3,000~4,000人分にまずは1日1食から始め、1日3食の提供が安定するまでに3か月以上を要しました。

 

3.「量」と「質」の対応

「量」の対応に追われるなか、温かい食事や栄養素、アレルギー対応といった「質の課題」は後回しにされがちです。カロリー優先で揚げ物中心のお弁当が毎日続けば、食欲が湧かず食べ残しも増えます。近年は栄養士と相談してお弁当のメニューを考えたり、豆腐や納豆、煮物、ヨーグルトなどの補助食品をセットにするなどの工夫が一部で見られるようになってきましたが、本来「量の課題」は「質の課題」と同時に対応を進めることが必要です。

栄養がある温かい炊き出しは、被災者の尊厳を守ることにもつながります。災害救助法では、民間の炊き出し支援者への予算措置も想定されています。ただ、初めて大規模な災害に見舞われた市区町村には災害救助法の実務経験者は一人もおらず、法律が期待する柔軟な適用ができたケースは限られています。ほとんどの民間炊き出し実施者は、自分たちの持ち出しや寄付で経費を賄っていて、連日の継続的な活動が可能な支援者はごく少数なのが実情です。

 

4.取り残されやすい在宅避難者

被災者がいるのは、避難所だけではありません。在宅避難者は、支援から取り残されやすい存在です。建物が無事でも、ライフラインが復旧していなければ自炊はできません。在宅避難者から見れば、毎日無料で支援物資や食品がもらえる避難所はうらやましく見えているかもしれません。「いつも避難所ばかり」と不公平にも感じるでしょうし、在宅避難者にも受け取る権利があるはずです。避難所は、近隣の在宅避難者への支援拠点でもあるとは定義されていますが、実際はなかなかそこまで手が回りません。また、在宅避難者側も「私は避難所の住民ではないから申し訳ない」と遠慮する人が多く、より一層の工夫が求められます。

公園や駐車場などのアクセスの良い場所に「地域支援拠点」を開設して、在宅避難者に物資配布を行う事例も増えてきました。地域支援拠点の活動が広がり、きちんと周知されることは、在宅避難者に食を届ける大きな一歩になるでしょう。

地域支援拠点での物資・食料配布の様子(2024年珠洲市)

 

5.炊き出しの準備と流れ

災害時の食の支援には様々な方法がありますが、炊き出しは代表例のひとつです。自衛隊による炊き出しもあれば、現地の町内会や企業、飲食店がボランティアで実施したり、NPOや有志のグループが外部支援者として被災地に出向く場合もあります。温かく栄養があり美味しい炊き出しは、被災者の心身の健康を支えます。

一方で、設備や食材の調達、衛生管理など、被災地での炊き出しには通常とは異なる難しさがあります。特に外部支援者にとっては、実施する日時や場所、食数、メニューなど、現地側との様々な事前調整が必要です。調整不足は、被災地の混乱、支援のモレ・ムラにつながり、せっかくの炊き出しが無駄になりかねません。段取りが多い屋外調理の炊き出しを例に、事前準備から当日までの流れを見ていきましょう。

 

①被災地の情報収集、支援先の調整
炊き出しが必要なのか、道路事情やインフラ状況を含めた情報収集を。支援調整窓口が設置されていれば、日時、場所、メニュー、注意事項を事前に問い合わせる

② 調理場の資機材・道具(例)
テント、テーブル(作業台)、ガス、五徳、消火器、調理道具(寸胴鍋、お玉、包丁、まな板など)、クーラーボックス、各種容器・ラップ類、ゴミ箱・ゴミ袋、雑巾・台ふき など
※現地で借りられる資機材・道具類は事前に確認する

③ 服装・身だしなみ(例)
清潔な服装と靴、エプロン、頭を覆うもの(三角巾・帽子など)、マスク、使い捨て調理用手袋、アルコール消毒 など
※長い髪は束ねる、ネイルはしない、アクセサリー類は外すなどの徹底も

④ メニューの検討
実施前後のメニュー被りを避け、主食、主菜、副菜、汁物などのバランスと栄養素を考慮。生ものはNGで加熱調理をする。主食ではなく、汁物一品やデザート類の提供が喜ばれることもある
※緊急時の炊き出しは保健所への申請は不要。ただ、衛生管理・食中毒には十分に注意すること

⑤ 食材、消耗品
食材、調味料、ガス、水は被災地で調達できない場合がある。容器・箸などは多めに準備する。その場で食べてもらう場合には、折り畳みテーブルや椅子の準備も
※ゴミは分別して持ち帰るのが原則

⑥ 活動人員と時間の管理
運搬、設営、調理、配膳スタッフの確保。車両移動では運転は悪路に注意し、時間には十分に余裕を持つ

⑦ 当日の流れ
移動→到着→打ち合わせ→設営→調理→受付開始→配膳→食事→片づけ→報告→帰路
※悪路や渋滞も想定し、移動や工程全体に余裕を持つ
※食材の衛生を保つ(食材や容器を地べたに置かない、肉は最後に切るなど)

 

6.いつまで続けるべきか

食の支援は、いつまで必要でしょうか。避難所であればその避難所が閉所になるまでですが、在宅避難者の場合には自炊・外食ができる状況が整うまで、が基本的な姿勢です。とはいえ、この線引きは簡単なようで意外と判断が難しいものです。地区全体のライフラインの復旧と一軒一軒の復旧状況は、必ずしもイコールではありません。ライフラインが復旧しても、調理家電・器具は無事でしょうか。民業の圧迫にならないよう、地域のスーパーやコンビニ、飲食店の再開状況はひとつの判断材料です。ただし、住民と復旧作業員や支援者をカバーできる店舗数の営業再開には、それなりの月日がかかります。移行は、地域ごとに徐々に進めていくべきでしょう。

仮設住宅にはキッチンがあり、ライフラインが使える状態で入居します。しかしながら、人のつながりがあった避難所とは違い、今度は孤立が心配です。調理済みの食事ではなく、あえて食材だけを持ち込んで一緒に調理をしてみたり、サロンで交流を促進するためのドリンクやお菓子を提供するなどの「場づくり」を意識した食の支援は、その後もしばらくニーズがあるでしょう。

 


 

食の支援は、災害関連死にも直結する大きな課題です。もっと優先されるべきテーマでしょう。大規模災害では、数か月にわたって毎日必要な支援であり、発災直後と1か月後、数ヶ月後では求められる形が異なります。また、食事には単にお腹を満たす目的だけでなく、生きがいや人のつながりを創出する文化的・社会的意義もあります。どうすればより一層の効果的な支援ができるのか、私たちも追求し続けたいと思います。

 

参考資料
Photo by: Tracy Taylor & Dee Green, Suzuki Shoichi, Nakamura Mitsutoshi