避難所の運営支援
(第3回)「人」の課題と対応
避難所は、多様な人が集まる場所です。年齢や性別といった違いはもちろん、毎日の生活リズムが異なります。また、不安やイライラなど様々な個人の感情が入り混じっている空間でもあります。生活環境の整備とともに、多様な立場や感情と向き合うことは避難所運営の大切な役割です。今回は、「人」の課題と対応について考えていきましょう。
*この記事は、2026年2月時点での情報を基に執筆しています。

1.「大丈夫ですか?」で、課題は見つからない
避難生活を送っている人は全員、何かしらの課題を抱えています。自宅の被災やライフラインの停止、慣れない避難所の環境といった物理的な課題もあれば、周囲への気兼ねや将来への不安といった内面の課題もあります。すぐに対応できることと時間がかかることがありますが、まずはそれらの課題に気づくことが最初のステップです。
被災者から課題を聞きだすのは、それほど簡単ではありません。「大丈夫ですか?」と尋ねても、返ってくる答えは「大丈夫です」がほとんどです。逆に「この状況が大丈夫に見えますか?」と怒鳴られるかもしれません。突然の災害に見舞われた中、自身の困りごとを整理して話すことができる被災者は多くありません。また、他人に弱みを見せたり、SOSを出すこと自体へのためらいもあるでしょう。被災者とのコミュニケーションには、相手側の気持ちを想像する視点が欠かせません。
避難者へのヒアリング(2022年、熊本県多良木町)
2.スフィア基準と基本理念
2024年12月に、内閣府(防災担当)が「自治体向けの避難所に関する取組指針・ガイドライン」の改定を公表しました。トイレは「20人に1基」、居住スペースは「1人3.5㎡」などの具体的な数の指標が示されていますが、これらは人道支援の国際基準である「スフィア基準」を参考に設定されたものです。この部分だけを取り上げると、スフィア基準が数値目標などの技術的な助言をしていると思われがちですが、最も重要なのは2つの基本理念にあります。
- 災害や紛争の影響を受けた人びとには、尊厳ある生活を営む権利があり、従って、支援を受ける権利がある。
- 災害や紛争による苦痛を軽減するために、実行可能なあらゆる手段が尽くされなくてはならない。
この基本理念が訴えるのは、必ずしも「トイレが20人に1基あればいい」、「居住スペースが1人3.5㎡あればいい」という物理的な数値だけではありません。すぐには実現できない数字だったとしても改善の努力を続けるべきで、基準値以上を揃えたとしても被災者が尊厳を持って使える状態を追求しなければいけません。そのためには、一人ひとりときちんと向き合う姿勢が求められます。言い換えれば、被災地という非日常の生活環境であっても、被災者の「過度な我慢を正解にしてはいけない」というメッセージなのではないでしょうか。

3.要配慮者への対応
被災者一人ひとりと向き合う中で、同じような課題を抱えやすい立場の人たちがいます。個別ではなく、避難所全体としての対応を考えておく必要があるでしょう。
①性別・ジェンダー
②性的マイノリティー
③高齢者
④慢性疾患・基礎疾患(アレルギー疾患含む)
⑤障害者
⑥妊産婦・乳幼児
⑦子ども
⑧外国人
⑨ペット連れ
⑩社会的弱者
例えば、着替えや洗濯、トイレなどは①性別・ジェンダー、②性的マイノリティーに配慮したスペースや動線が求められます。仮設トイレに段差があれば、③高齢者、⑤障害者の中には利用できない人がいるかもしれません。対象者がいれば、バリアフリーで利用できるトイレは必須です。各種掲示では、③高齢者向けには大きめな文字にする、⑦子どもにもわかるように漢字にルビを振る、⑧外国人向けに外国語の表記やイラストを加えるなどの工夫があれば、情報はより浸透しやすくなります。社会的弱者やペット連れなど、この他にも配慮が必要な人はいます。避難所の開設時にすべてを整備しておくことは不可能ですが、できることから一つずつ取り組んでいきましょう。

4.福祉避難所、福祉スペース
要配慮者の中でも特に福祉的な援護が必要な人に向けた「福祉避難所」の整備が進められています。一般の指定避難所とは別に、高齢者施設、障害者施設、妊産婦や乳幼児向けの施設などが市区町村ごとに指定されています。一般の避難所では対応が難しい場合に、施設側の受け入れ状況を見て移動の判断がされる「二次避難所」の位置づけです。
福祉的な援護を機能させるには、そのための運営計画、設備、人材、訓練が必要ですが、各福祉避難所の準備状況にはバラつきがあります。電気や水道が停止し、受け入れ(開設)そのものができなかった事例はたくさん報告されています。一般の避難所の運営者や支援者は、「要配慮者は福祉避難所へ」と単純化して捉えるのではなく、避難所内でのちょっとした力添えや「福祉スペース」の設置により、自分たちにできることに目を向けることが大切です。
避難所の一角で子どもたちと過ごすボランティア(2018年、岡山県倉敷市)
5.生活リズムの違い
避難所の集団生活の中では、ちょっとした我慢をため込んでしまうケースが見受けられます。食事提供のタイミングや夜の消灯時間は、1日の大半を避難所で過ごす高齢者中心の時間帯になりがちです。例えば、17時〜19時に夕食を配膳する場合、その後に仕事から帰って来る人は食事を受け取ることができません。外食中心の生活が続けば、経済的な負担もかさみます。また、21時を消灯時間とした場合、受験を控えている子どもたちはいつ勉強をすればいいのでしょうか。
こうした生活リズムの違いから生まれる課題は、「困りごとはないですか?」とたった一度ヒアリングした程度では気づくことができません。「時間内に帰ってこられない自分が悪い」と考えていたり、「大人の事情に子どもが合わせるべきだ」と感じていたりすれば、当事者はあまり口にしたがらないのが現実です。ヒアリングというかしこまった方法だけでなく、何気ない雑談にその兆候が隠れているかもしれません。顕在化している課題だけでなく、一見しただけではわからない潜在的な課題がたくさんあることを覚えておきましょう。
6.退所時のサポート
仮設住宅への入居、自宅の修繕、遠方への引っ越しなど、次の住まいの確保ができた人は避難所を退所していきます。復旧が早かったり、柔軟に新生活への適応をスタートさせられる「元気がある人」から退所する傾向が高く、閉所間近の避難所に残るのは簡単には解決できない生活再建の課題を抱えている被災者です。ご自身が同じ立場になったと仮定して、次の場面を想像してみてください。
避難所となった体育館で何か月も生活を続けてきました。
仲良くなった人が続々と仮設住宅に移り、残っているのは自分を含めた数人だけ。
自分の退所には、あと数週間はかかりそうです。
以前はたくさん届いた避難所への支援は、仮設住宅の入居者向けに切り替わり、
最近は避難所を訪ねてくる人はほとんどいません。
そんなことを考えている時に、すぐ横で
無人になった段ボールベッドの片づけ作業が慌ただしく始まりました。
どんな気分でしょうか。避難所での生活がずっと続くわけではないことは、被災者自身が一番よくわかっています。それでもすぐに次の住まいに移れない事情を抱え、申し訳ない気持ちで残っているのです。運営者や支援者の何気ない言動で、被災者を避難所から追い出すようなことがあってはいけません。新生活の準備がきちんと整うまで、隣で「待つ」ことも大切な心がけです。

最後に、2024年の能登半島地震・奥能登豪雨の被災地となった輪島市で、約500日続いた避難所の最終日を撮影した動画を紹介します。どんな毎日を過ごしてきたのか、これからどんな生活が待っているのかを想像しながらご覧ください。
・内閣府(防災担当)「避難所運営ガイドライン」,2016年
・内閣府(防災担当)「避難生活リーダー/サポーター 研修テキスト」(令和7年度更新版),2025年
・Sphere Association「スフィアハンドブック」(支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク訳),2018年
・震災がつなぐ全国ネットワーク「「ハイリスク予備軍」の人を見つけよう 解説冊子」,2016年
・特定非営利活動法人レスキューストックヤード「できることからはじめよう!避難所運営の知恵袋(改訂版)~みんなで助け合える避難所づくりのために~」,2019年
・公益社団法人ピースボート災害支援センター「避難所運営における困難や課題等に関するアンケート」,2023年